真空管アンプの基礎


真空管アンプは大別して、シングルアンプ、プッシュプルアンプ、差動プッシュプルアンプの3種類に 分かれます。ここではそれらの概要と特徴について簡単に解説します。なお、内容については有名な「ぺるけ」さんの サイト「情熱の真空管」を参考にさせて頂きました(感謝!)。

1.シングルアンプ

シングルアンプ シングルアンプの構成を直流的な面と交流的な面で見た簡略回路図です。B電源の電解コンデンサは電源の リップル低減と、出力トランスと出力管のカソードをアースを通して交流的に接続する役目を持っています。 出力管のカソードの電解コンデンサはアースと交流的に接続するものです(自己バイアスの場合)。
これから解るようにシングルアンプは「1つの信号を、1つの不平衡増幅回路で増幅し、そのまま出力トランスで インピーダンス変換するアンプ」と言うことができます。

マウスを画像に重ねると 画像が拡大 されます。(以下同様)

2.プッシュプルアンプ

プッシュプルアンプ プッシュプルアンプの構成を直流的な面と交流的な面で見た簡略回路図です。B電源の電解コンデンサと出力管のカソードの 電解コンデンサの働きはシングルアンプの場合と同じです。シングルアンプと異なる点は、位相が反対の信号を2本の出力管 で個別に増幅して出力トランスで合成していることです。 もし1本の出力管が故障しても歪が大きいだけで出力は無くなりません。
これから解るようにプッシュプルアンプは「1つの信号を、位相が反対の2つの不平衡増幅回路で増幅し、 出力トランスで合成した後、インピーダンス変換するアンプ」と言うことができます。

3.差動プッシュプルアンプ

差動プッシュプルアンプ 差動プッシュプルアンプの構成を直流的な面と交流的な面で見た簡略回路図です。プッシュプルアンプの 回路図と似ていますが、出力管のカソードが交流的にアースに接続されておらず、信号を通さない定電流 回路が挿入されています。このためB電源の電解コンデンサは電源のリップル低減の役目しか持ちません。 すなわち差動プッシュプルアンプは中点がアースから浮いており平衡回路になっています。もし1本の 出力管が故障すると出力が無くなり、正常球のプレート電流が倍に増加します。
これから解るように差動プッシュプルアンプは「1つの信号を、位相が反対の1つの平衡増幅回路で増幅し、 出力トランスでインピーダンス変換するアンプ」と言うことができます。このように差動プッシュプルアンプ は見かけは従来のプッシュプルアンプによく似ていますが、増幅原理的には全く異なっておりプッシュプル なのにシングルアンプのような音が出るのもこのためかも知れません。

代表的な差動プッシュプル
アンプ回路図 代表的な差動プッシュプルアンプの回路図です。電圧増幅段も差動になっているため「全段差動プッシュプル アンプ」と呼ばれます。初段管の入力側でないG1のグリッド抵抗値により全体の負帰還量が変わります。 初段のカソードは定電流ダイオードで、終段のカソードはLM-317というICによって一定の電流値を得ています。 20kオームのボリュームは終段のDCバランス調整を行うものです。定電流ダイオードに負電位のバイアスを かけているのは、そのままアースに落とすとダイオードが定電流動作をしなくなるためです。 定電流ダイオードには少なくとも-4〜-5Vのバイアス電圧が必要です。

4.各種真空管アンプの特徴

これら3種類の真空管アンプの特徴を、回路構成、低域特性、歪率特性、最大出力、音の良さに大別して 説明します。

(1)回路構成
項 目 シングル プッシュプル 差動プッシュプル
位相反転 なし あり あり(不平衡から平衡へ)
信号の分割 なし あり なし
増幅系の数
伝送モード 不平衡 不平衡 平衡
信号の合成 なし あり なし
構成のシンプルさ 簡単 複雑 やや複雑

(2)低域特性

シングル回路の弱点の1つに、出力トランスの直流磁化による磁気飽和に伴う低域特性の劣化があります。 プッシュプル回路も差動プッシュプル回路もこの問題がないため低域特性は優れています。

シングル回路: X
プッシュプル回路: ○
差動プッシュプル回路: ○

(3)歪率特性

シングル回路は直線性の良い直熱3極管といえども2次歪が発生します。 プッシュプル回路は2次歪を互いに打ち消すため良好な歪率特性を持っています。 差動プッシュプル回路は2次歪はプッシュプル回路と同じですが、3次歪はプッシュプル回路より大きい です。

シングル回路: △
プッシュプル回路: ◎
差動プッシュプル回路: ○

(4)チャンネルセパレーション特性

シングル回路ではB電源の高圧用電解コンデンサーの容量に制限があるため、低域周波数においては そのインピーダンスが無視できなくなり、アースを介して反対側の信号が漏れてしまい左右のセパレーション特性が 悪化します。一例として10Hz、100μFの場合、電解コンデンサーのインピーダンスは160オームなので、出力トランスと 出力管の合成インピーダンス(300Bの場合で4300オーム程度)に対するインピーダンスの割合で漏れが生じます。 つまり、簡易計算上では 20 Log (160/(160+4300)) = -29 dB の漏れがあることになります(詳細は下図参照)。 この図から解るように、もし、電解コンデンサのインピーダンスがゼロの場合(実際には有り得ませんが)、左右チャンネル 間に信号の漏れは生じないことになります。

クロストーク量計算
これを少しでも改善するには抵抗と電解コンデンサーによるデカップリング回路をチャンネル別に設置することです。 プッシュプル回路では、A級は電解コンデンサーに信号がほとんど流れないため優秀ですが、AB級になると信号が流れる ため少し悪化します。 差動プッシュプル回路は平衡回路なのでB電源の高圧用電解コンデンサーに信号が流れず、チャンネルセパレーションは モノラルアンプ2台構成には及びませんがとても優秀です。

シングル回路: △
プッシュプル回路: ○
差動プッシュプル回路: ◎

(5)最大出力電力

シングル回路では最大出力は出力管のプレート損失の50%が理論上の値で、実際は25%〜40%が普通です。 プッシュプル回路ではA級でシングル回路の2倍以上、AB級では3〜5倍の出力が得られます。しかし、 差動プッシュプル回路ではシングル回路の1.5〜2倍程度になります。出力の低さよりも音の良さが 差動プッシュプル回路の魅力ではないかと思います。

シングル回路: △
プッシュプル回路: ◎
差動プッシュプル回路: ○

(6)音の良さ

シングルアンプは中域にエネルギーが集中した感じで独特の音がします。プッシュプルアンプは低域から 高域まで広い帯域幅の音を出しますが何か音が前に出てこない感じがします。差動プッシュプルアンプは チャンネルセパレーションが優れているためか定位感のある密度の高い音場であり、低域が独特の力感を持ち、 小音量でも音が前に出てくる感じがします。また、残留雑音が非常に小さくスピーカーに耳を付けても ほとんどノイズは聞こえません。

シングル回路: ○
プッシュプル回路: ○
差動プッシュプル回路: ◎



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