単眼望遠鏡の双眼化に挑戦


天体観測を趣味とする者は双眼鏡で地上の景色や月を見た事が必ずある はずです。その時、倍率は低いがとても綺麗に見えると感じたと思います。視野が 広くて立体的に見えると共に片目で見るより目の疲れが少ないと思います。これまで 天体観測は片目で望遠鏡を覗くのが当たり前だと思っていましたが、最近になって両目で 見る天体望遠鏡がある事を知りました。いわゆる「双眼望遠鏡」です。最も単純な例は 2本の全く同じ望遠鏡を横に平行に並べる方法です。高倍率で大型の双眼鏡になります。 もう一つは1本の望遠鏡の接眼部にプリズムで2方向に分岐する部品(双眼装置)を取り 付ける方法です。これは疑似的な双眼望遠鏡になりますが両目で見るので疲れが少ないと 共にある程度鮮明で立体的に見えるそうです。そこで、貧乏天体観測人はなるべくお金を 掛けないで単眼望遠鏡の双眼化に挑戦する事にしました。

30倍ズーム 現在持っている単眼望遠鏡にTOMYELL製の50mm径10〜30倍ズームがあります。数年前に近所の ハードオフで540円で買いました。ズーム倍率を変える回転部が空回りしていたので分解して 修理した物です。これを2本並べたら最も簡単に双眼望遠鏡を作れそうです。倍率が 低いので月の観測に向いていると思います。早速ヤフオクでチェックしたところ1,000円で 出品されており送料込み1,700円でゲット出来ました。写真はゲットした新品同様の10〜30 倍ズーム望遠鏡です。540円で買った物は対物レンズの外周部に汚れが少しありますがこの 望遠鏡は対物レンズも接眼レンズも綺麗だったのでとてもラッキーでした。

マウスを画像に重ねると 画像が拡大 されます。(以下同様)

固定板 この望遠鏡にはカメラ用3脚に取り付けるためのネジ穴があり、2本並べるにはアルミ板に ネジで固定する方法しかありません。鏡筒をバンドで固定する方法は対物レンズとズーム 倍率の回転部が干渉するため全く使えません。 そこで、厚さ2mmの100mmx200mmアルミ板を購入しました。これに厚さ1mmの25mmx150mmの 穴あきステンレス板を2枚買って望遠鏡を固定する方法としました。1方の望遠鏡をしっかり 固定して他方の望遠鏡を横方向に移動させて目幅に合わせます。M4サイズのネジが横に摺動 出来るようにアルミ板に長方形の穴を空けました。当初、ネジ式の微動装置を検討しました が相当難しそうだったので結局手動で調整後に蝶ネジでアルミ板に固定する方法にしました。 自分専用ならこれでOKです。ところが2本の望遠鏡の縦方向の光軸が揃っておらず仰角調整 が必要になりました。ここもネジ式の微動装置を検討しましたが最終的にバネ座金と平座金 を1枚ずつ重ねて前方の2本のネジに挿入しナットの締め付け具合により左右の像の高さを 合わせました。傾きが150mm当たり2mmなので角度を計算すると2.4度ですがどちらの望遠鏡 の軸がずれているのかは不明です。水平方向の視軸は固定していない側の望遠鏡を少し回転 させて左右の像を重ねます。この調整は大変クリチカルでピッタリ合わないと理想的な 双眼鏡になりません。

完成 総額4,000円程度で完成した50mm10〜30倍ズーム双眼望遠鏡です。持ち運びと操作性に 便利なように塩ビパイプによる取手を作りました。これで片手で持ち運ぶ事が出来ます。 双眼望遠鏡なんて2本の望遠鏡を平行に並べて目幅に合わせれば簡単に出来ると考えて いましたがとんでもない事が分かりました。完成した双眼望遠鏡ですが、倍率10倍では かなり双眼鏡に近い見え方をしますが30倍になると視軸の調整がとても微妙です。 常時無限遠に焦点を合わせるなら問題ないのですが、双眼鏡では近くの景色を見る場合 もあるので視軸とズーム倍率が合致しないと像がピッタリ重なりません。 2本の望遠鏡で双眼視するには@目幅を合わせるA水平と垂直の平行度(視軸)を合わ せる事が重要だと分かりました。2本の望遠鏡の形状が全く同じでも光学的特性に差異 がある場合は平行に並べただけでは視軸は合いません。縦方向と横方向の角度調整が 必須です。高倍率の高級双眼鏡がほとんど市販されていない理由が分かりました。現在 持っている口径60mm、焦点距離910mmの望遠鏡をもう1本安く購入して双眼望遠鏡を作る という当初の計画は諦めました。30倍の倍率でこれだけ難かしいので高倍率で長焦点 距離の双眼望遠鏡の実現は小生には少しばかりハードルが高そうです。

改造1 その後、目幅調整が非常に面倒なのと上下方向(仰角)の視軸がピッタリ合ってないと 双眼鏡としての見え味が得られない問題を何とかしたいと考え簡単な改造を行いました。 上下、左右方向の平行度をより簡単に合わせられる様に手持ちのL型アングルを使いま した。これを使えば丁度良い具合に2本の鏡筒の高さがほぼ同じになりました。以前は 仰角はほぼ固定するしかなかった上に横方向の平行移動が上手く出来なかったのですが 改善後はL型アングルを横方向に簡単に動かせるし仰角も鏡筒を回転させるだけで簡単 に調整出来ます。

改造2 裏側の写真です。以前の余計な穴が残ったままですが横方向に細長い溝を切ってある のでL型アングルを動かした後で蝶ナットで締め付けて固定します。以前は150mmの細長い ステンレス板を平行移動させるのは至難の業でしたがL型アングルは長さが短いので 簡単に摺動出来ます。

改造3 改善後の全体写真です。L金具を使ったので仰角調整が楽になりましたがそれでも非常に クリチカルです。両望遠鏡の上下の像が少しでもズレていると見え味が著しく悪くなり ます。このため、下からM3サイズの微動ネジで鏡筒を持ち上げて固定する事に しました。この際、バネで鏡筒を上から押さえ付けていますが強度的には十分でなく 気分的なものです。この改善で水平、垂直の平行度を簡単に調整出来るので倍率 を30倍にしても双眼鏡としてそこそこの性能を得る事が出来ました。双眼鏡を首から 掛けるバンドも取り付けました。重いのが難点ですが高倍率双眼鏡として実用になります。

月観測 改良を加えた50mm径10〜30倍ズーム双眼望遠鏡で月を観測しました。片眼で見るより 鮮明に見えるし目も疲れません。念のために木星と土星も見ましたが倍率が低いのと ピントの甘さで衛星と輪の存在がやっと判るだけでした。安物のズーム式プリズム 正立像望遠鏡では月以外の惑星の観測は少し難しいです。

双眼装置 超安値で購入した2台の単眼望遠鏡で双眼望遠鏡を作って一応の成功を収めました。 そうなると、現存の望遠鏡に双眼装置を取り付ける方法にも挑戦したくなるのは当然 の成り行きです。ネットオークション でチェックしたのですがなかなか安くて良いものが見つかりません。5〜8万円出すと 外国製の良いものがあるようですが貧乏人には高価過ぎます。とうとうしびれを 切らしてスターベース東京店で新品の双眼装置を買ってしまいました。笠井トレー ディング製のBS双眼装置で価格は送料込み約27,000円です。久し振りに天体観測に 大金をつぎ込みましたが嫁さんには内緒です。なお、BS双眼装置の仕様は以下の通り です。重量が500gもあるので安物の赤道儀では望遠鏡の設定が大変です。
直視型・天体望遠鏡用双眼装置(全面マルチコート)、入射口径:23mm、 必要光路長:97mm(3xエクステンダー併用時10mm)、適合目幅:54〜75mm、望遠鏡 への接続方法:31.7mm差込(31.7mm用フィルター装着可能)、適合アイピース:31.7 mm、回転ヘリコイド視度調整機構付(両目共)、最大寸法:115mmx120mmx43mm、 重量:520g、双眼装置保護用アルミケース付属

双眼アイピース 小生が保持する天体望遠鏡は3台ありますが最も軽くて取扱いが楽なのは60mm径 焦点距離910mmの屈折望遠鏡です。取り敢えずこの望遠鏡で試して見て成功したら 115mm口径の反射望遠鏡や80mm口径の屈折望遠鏡でも実験したいと思います。 問題は鏡筒に双眼装置を取り付けた時にそのまま合焦するかどうかです。光路長 が97mmだけ長くなるからです。場合によっては延長用のバローレンズが必要らしい です。もう1つの問題は全く同じのアイピースを小生は持っていない事です。 メーカーが同じAstro Streetの焦点距離15mmですが見掛視界が66度と68度のアイ ピースで取り敢えず実験して見ます。わずか2度の違いなので大きな支障はないと 思います。左右のアイピース取付口にヘリコイド視度調整機構があるのでピント 合わせは問題ないと思います。

双眼望遠鏡 60mm径焦点距離910mmの屈折望遠鏡に15mmのアイピース2個を付けた双眼装置を 取付けて月を観測しました。その結果、延長用のバローレンズなしでそのまま 合焦しました。望遠鏡の倍率が60倍なので視界一杯に満月が綺麗に見えました。 片目で見るよりも立体的に見えるのは双眼装置の効果だと思います。同時に、 長い間見ても目の疲れが少ないと感じました。ただ、アイピースを覗く姿勢が とても窮屈なので天頂ミラーを付けたいのですが光路長がその分長くなるので うまく合焦するか難しく鏡筒切断が必要かも知れません。

鏡筒切断 しばらく使用していましたが天頂ミラーを付けないと望遠鏡を覗く姿勢が辛く感じる 様になりました。そこで、鏡筒を切断する方法を詳細に検討した結果、55mmだけカット すれば天頂ミラーだけ、双眼装置だけ、両方を付けた状態の全てで合焦する事が判明 しました。ただし、何も付けないでアイピースを接続した場合は合焦しません。 写真は金切ノコで切断した鏡筒です。対物レンズは3本のネジで鏡筒に固定されている だけなので簡単に取外し、取付けが可能なため対物レンズ側で切断しました。 小口径の対物レンズのため光軸調整が出来ない構造なので取付けは超簡単です。

切断後 この改造によって天頂ミラー付きで双眼視出来る様になり楽な姿勢で観望すると 共に正立像になるため惑星を捉え易くなりました。また、従来通り天頂ミラー付きで 片目の観望も出来ます。本望遠鏡は鏡筒、赤道儀、3脚ともかなり軽量なため必要時 に短時間で設営出来ます。ただし、仰角は35度に固定、極北は磁石合わせ、水平出し は3脚の足任せ、等々良い加減なため赤経(水平)方向の微動だけでは正確な追尾は 難しく、時々赤緯(上下)方向の調整が必要になります。赤経軸は以前から56:1の 減速器付きなので楽に手動追尾が出来ます。そこで、6:1の減速器を赤緯軸に追加 する改造を行いました。この改造で低倍率での手動追尾がストレスなく出来る様に なりました。1分くらい経過したら56:1減速器のダイヤルを数回だけ回せば惑星が 視界から外れる事はありません。

切断後 60mm径焦点距離910mmの屈折望遠鏡に双眼装置を付けて惑星の観測を始めましたが、 天頂ミラー+双眼装置の重さが半端でないため赤道儀がグラグラして不安定です。 このため、80mm径焦点距離1200mmの大型屈折望遠鏡とNP赤道儀による双眼望遠鏡 の検討を始めました。この望遠鏡の欠点は長いので操作が大変な事です。そこで、 天頂ミラーと双眼装置の光路長が175mmほど加算されるのを理由に本屈折望遠鏡の 鏡筒を150mmだけ切断する事にしました。どうせ燃えないゴミで処分する積りだった ので失敗しても怖くありません。で、切っちゃいました。金切りノコで注意深く ゴシゴシ切っただけです。鏡筒は厚さ1.5mmのアルミ製だったので割と簡単に切れ ました。Vixenのロゴマークが切断側だったので後で貼りなおそうかな?

絞り環 切断面から対物鏡側を見たところです。深さ100mmくらいの場所に絞り環がありました。 接眼部のドローチューブを引っ込めた時に干渉するかも知れませんが様子見とします。

穴マーク 3個のネジ穴を開けなければなりませんが接眼部の位置が変わらない様にマークを 付けました。3個のネジ穴間の距離をメジャーで鏡筒外周に沿って測ったら3ヶ所 とも95mmでした。外径が90mmなのでほぼ計算通りです。

新双眼望遠鏡 無事に3個のネジ穴を開けました。接眼部が元の位置から変わらない様に取付けます。

完成 150mmだけ短くなった鏡筒に接眼部を取り付けました。重量は大して減っていませんが 長さが少し短くなったので操作性は良くなったと思います。

新双眼望遠鏡 短く切断した鏡筒をNP赤道儀に取り付けました。NP赤道儀は頑丈なので天頂ミラーと双眼装置 を搭載しても大丈夫です。この時点で一番の関心事は双眼装置を取り付けた時の合焦位置です。 天頂ミラーと双眼装置を取り付けた時の合焦位置を確認したところドローチューブ長が75mm くらいで合焦しました。天頂ミラーのお陰で正立像になり追尾も楽です。早速、月面を観察 しましたが明るく立体的に見えて目の疲れも少ないです。両目で見るので片目で見るよりクレ ーターも鮮明に見えます。鏡筒の短縮改造は一応成功です。ただし、短く切り過ぎたためか、 天頂ミラーのみ付けた時、双眼装置のみ付けた時は合焦しませんでした。本望遠鏡は双眼視 目的しか使わないと思うのでこの様な使い方はまずしないですがその場合は50mm程度の延長筒 が必要になります。今になって思えば鏡筒の切断長を100mmにしておけば良かったと反省して います。そうすればドローチューブを引っ込めても絞り環に干渉する問題も起きなかったで しょう。一応の成功で、現在1個ずつしか持っていない20mm、9mm、6mmのアイピースが欲しく なりました。お金かかるなー!!。その後の予定として、115mm径の反射望遠鏡に双眼装置を 取り付けられるか検討します。ドローチューブが短か目なので多分バローレンズが必要になる のではと思います。いよいよ「双眼狂」なる振興宗教に入信してしまいました。高額な物を 買わされたり無理な献金に応じない様に気を付けます。

反射双眼望遠鏡 その後115mm径焦点距離910mmの反射望遠鏡に双眼装置を取り付けて月を観測しました。予想通 りドローチューブを最短にしても合焦しませんでした。そこで手持ちの2.5倍バローレンズを 挿入して焦点距離を延長したところドローチューブを35mmくらい伸ばしたところでピントが 合いました。バローレンズの倍率が2.5倍なので20mmアイピースの場合、トータルの倍率が 110倍になり月面の1/3くらいしか視界に入りません。追尾が大変ですがクレーターが立体的 かつ鮮明に見えました。低倍率(1.5倍くらい)のバローレンズが欲しくなりました。



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