「買ってはいけない」反射望遠鏡の大改造


赤道儀のほぼ自動追尾化が完了したので反射望遠鏡の大改造を行いました。 元々「買ってはいけない」と巷で言われる口径115mm、焦点距離910mmのDS-115なる反射 望遠鏡なので壊れて元々の精神で思い切って実行しました。ここで、この反射望遠鏡が何故 買ってはいけないと言われるのか考察して見ます。@主鏡が放物面鏡でなく安価な球面鏡の ため周辺部からの反射光が1点に収束せずコマ収差を生じる。A接眼部が安価な構造のため ドローチューブの抜き差し時にガタがありピント合わせに難がある。B接眼レンズのサイズ が24.5mmと小さいため暗くて見え味が悪い。C斜鏡を支えるスパイダーが太い金属棒のため 見え味に悪影響を与える。D赤道儀が安作りのため不安定であり微動操作に難がある。E ファインダーのレンズが安物のためピントが甘く色収差を生じる。F鏡筒内の迷光対策が甘 いためコントラストが低下する。以上の様な問題があるので天文上級者は絶対手を出さない そうです。なお、A、B、Dについては2年前に既に小生は改善策を講じています。
今回その他の問題をなるべくお金を掛けないで出来る以下の改造を行いました。 ア:主鏡の交換、イ:主鏡の爪隠し、ウ:斜鏡の交換、エ:フードの取付け、オ:筒先の 絞り、カ:鏡筒内の反射軽減、キ:ドローチューブの減速、ク:ファインダー台座の補強で、 迷光(不要な光の反射や散乱)の軽減、星の照準と合焦を容易にするのが主目的です。 結果的にもうこれ以上改良の方法がないほど改造しましたが、所詮反射鏡が放物面でなく 球面なので星雲や星団の観測には不向きで惑星観察に限定した方が良いでしょう。

ドローチューブ 実は今回の大改造を行う以前にこの反射望遠鏡は幾つかの改造をしています。 その1つが接眼部の交換です。 反射型望遠鏡のドローチューブにねじ込まれている樹脂部分と一体になっている24.5mmスリーブ は切り取るしか改造方法がないし、接眼部の全てがプラスチック製のためガタが酷くピント合わせ に苦労するので接眼部全体を交換する事にしました。一流品は何万円もするため スコープタウンから送料込み5,000円の接眼部を購入しました。鏡筒は直径140mmなのでピッタリ でしたが、ネジ穴の位置が10mmくらいズレていたため電動ドリルで3個の穴を開けました。 廉価品ですがチューブもスリーブも金属製なのでガタは小さく動きも大変スムーズです。 この改造で31.7mmの接眼レンズが使える様になり明るい画像と楽なピント合わせが実現出来ました。

マウスを画像に重ねると 画像が拡大 されます。(以下同様)

鏡筒の短縮 2つ目の改造が鏡筒の短縮です。 新規購入した接眼部のドローチューブが結構長くて無限遠にピントを合わせた時に30mmほど鏡筒 内に突き出て干渉による悪影響が心配です。ドローチューブ切断と言う方法もありますが、 つい でに直焦点撮影と市販品のアダプターを使った拡大撮影が出来る様にするため鏡筒を切断 する事を決断しました。光軸調整の器具も自作したし安物の望遠鏡なので怖い物はありません。 写真は金切鋸で25mmほど切断した後で鑢をかけサンドペーパーで整形したところです。主鏡部を 固定 する3本のネジは2.5mmΦの穴をドリルで開けた後にネジをグイグイと捻じ込んだらうまく 固定出来ました。その後の光軸合わせは必須ですが自作の光軸調整アイピースと赤外線コリ メーターがあるので大丈夫です。

新旧主鏡 さて、ここからが今回の大改造です。写真は新旧の主鏡で左側が新で右側が旧です。 古い主鏡は洗浄してもコーティング面の汚れが完全に取れず少し曇っていました。そこで、 同じ仕様の反射望遠鏡をネットで探したところ、ER-114M(多分ヴィクセン製?)という 望遠鏡セットをゲットしました。 本体と運送費がほぼ同じという価格で購入しましたが主鏡、赤道儀、3脚が使用出来たら 儲けものです。幸運にも主鏡の劣化はなくとても綺麗だったので交換する事にしました。 写真では新旧の違いはほとんど分からないですが実際は古い主鏡は少しだけ曇っています。 サイズはほとんど同じで以下の通りです。
新:直径114mm、厚さ14mm、焦点距離920mm、旧:直径113mm、厚さ15mm、焦点距離910mm

爪隠し 写真は主鏡を3ヶ所で固定する 爪を隠す改善です。鏡面に出っ張っている黒い爪が見え味に何らかの悪影響がを及ぼす らしいので厚紙をサークルカッターで幅4mmの円環を作り黒色塗装をしてから爪を覆い ました。爪の出っ張りは見えなくなりましたが主鏡の直径が8mmほど小さくなりました。 小生の天体活動は惑星観測が主目的なので中心部さえ良ければ大丈夫です。また、光軸 調整のためのセンタリングマークを付けました。主鏡交換でコントラストや解像度に 改善が見られたら嬉しいです。

斜鏡とスパイダー 本反射望遠鏡は写真撮影時のバックフォーカス問題解決のため鏡筒を25mm切断して主鏡を 前方に移動させたので斜鏡のサイズを大きくする事にしました。既存の斜鏡は短径が25mm でしたが周辺部のメッキが少し剥げている事も交換の理由です。新しい斜鏡の短径は28mm ですが斜鏡カバーの外周部をヤスリで削り落とすだけでスッポリ挿入出来ました。ただし、 そのままだと斜鏡が落下する心配があるので接着剤で固定しました。新しい斜鏡は笠井トレー ディングから2,200円で購入した安物です。斜鏡のミラーを交換した余勢を買ってついに スパイダーにも手を出しました。オリジナルのスパイダーは直径3mmの金属棒なのでもっと 遮蔽率が小さい薄い板状の金属に改造しました。厚さ0.5mm、幅2cm、長さ1mの焼入れ帯鋼 (600円程度)をホームセンターで購入し、長さ4cmに切断して両端に直径3mmのネジを接着剤 (メタルロック)で固定しました。ボルトにナットを締付けた状態で金切鋸で頭部に上から 3mmほど切れ込みを入れ帯鋼を挟み込んで接着しました。この時銅箔テープを帯鋼の両面に 張付ければ挟み込んだ帯鋼がグラつかず接着作業が楽です。その後迷光防止のため艶消しの 黒塗装をしました。スパイダーの遮蔽率は計算上は6分の1ですが、工作精度が低いため4分 の1くらいに低減出来たら良いなと思います。写真は新しい斜鏡と取外した古いパーツです。 僅か3mmの斜鏡拡大とスパイダーの交換ですが接眼部から覗いた時に主鏡全体が見える様に なり、画像も何だか明るくなった様な気がします。斜鏡とスパイダーの交換で主鏡のダウン サイズが帳消しになった上に見え味も改善されたのであれば嬉しい限りです。なお、光軸 合わせは自作の光軸調整アイピースと赤外線コリメーターがあるのでコツを掴めば簡単に 出来ます。

光軸調整器具 ここで反射望遠鏡の光軸調整の復習です。写真は自作した光軸調整アイピースと赤外線 コリメーターで、この2つがあれば反射望遠鏡の光軸調整は怖くありません。その前に主鏡と 斜鏡にセンタリングマークを付けて置く事が必須です。 光軸調整アイピースは1mmΦの小さな穴を開けた31.7mmパイプの先端に十時マークを付けた アイピースです。まず最初に十時マークの中心に主鏡と斜鏡のセンタリングマークが重なる ように主鏡と斜鏡を調整します。本反射望遠鏡の場合は3本のスパイダー先端のネジの締め 付け具合により調整します。ネジの位置は鏡筒の長さ方向に5mmくらい動かせますが3本とも 取り敢えず中央位置にして置きます。主鏡は3本の引きネジと3本の押しネジでセンタ リングマークが斜鏡の中心に来るように調整します。 次に赤外線コリメーターですが、アイピースから発射 された赤外線レーザー光線が斜鏡→主鏡→斜鏡→アイピースに正しく戻って来る様に調整 する物です。斜鏡の交換後は殆どの場合反射光がどこに返って来たのか全く確認出来ない 事が多く、この場合は鏡筒の先端から主鏡を覗き込みレーザー光がセンタリングマークに 当たる様に斜鏡の4本のネジを調整します。周辺部の押しネジ3本と中央部の引きネジ1本を 注意深く交互に調整します。これが終わると大抵の場合赤外線コリメーターのどこかに 反射光が現れるので正しくセンターに返って来るように更に微調整します。

反射防止シート 光軸調整が無事に終わった後の斜鏡と新しいスパイダーです。以前の棒状のスパイダーと 比べると少しだけ高級感が漂っています。もうオンボロ反射望遠鏡と言わせないぞー。 なお、写真ではドローチューブの先端が鏡筒内に出っ張っていますが、無限遠にピント 合わせしても出っ張りは無いので心配は無用です。

反射防止シート 鏡筒内の迷光軽減のために購入したゴムシートです。幅30cm、長さ150cmの網状のシート で価格は700円程度です。鏡筒内への張付けは両面テープと黒色の接着剤を使用しま した。

フード 塩ビパイプを利用してフードを自作しました。もう少し長いフードが理想的なのですが 鏡筒が長くなり過ぎても取り回しが不便になるのでこの程度で我慢します。筒先の外径が 丁度140mmだったのでVU管のソケット(継手)を購入して筒先のパーツに接着材で取り付け ました。従って、このフードは取外しが出来ません。呼び径125のVU管ソケットは長さ 135mm、内径140mm、外径150mmで価格は400円程度です。迷光を軽減するために黒色の ゴムシートを内周に張り付けています。

筒先絞り 鏡筒筒先の絞りです。材料は100円ショップで買った隙間テープで幅15mm、厚さ8mm、長さ150cm の物です。このテープを内周の長さに切断してフードの内側に張り付けました。これにより 筒先の直径が約6mmほど絞られましたが見え味がどの程度改善されるかは不明で単に暗くなる だけかも知れません。

鏡筒内の塗装 鏡筒内部は一応塗装されていますが経年劣化で灰色っぽくなっているので艶消しの黒塗装を しました。 当初は黒色のゴムシートを内周に張り付ける方法を考えましたが、長い鏡筒に綺麗に 張り付けるのは至難の作業なのでスプレー塗装に変更しました。ついでに、中央付近に厚さ 8mmの隙間テープの円環を挿入しました。これで鏡筒内の反射は少しだけ軽減するでしょう。

バローレンズ 本反射望遠鏡の焦点距離は910mmでそれほど大きくありません。そのため、直焦点撮影では 画像が小さ過ぎるので2.5倍のバローレンズを購入しました。拡大撮影アダプターを持って いるのですが、取扱いが非常に面倒なので滅多に使わなくなりました。その点、バロー レンズは単にドローチューブに取り付けるだけで、ピント位置も大きく変わらないので便利です。 巷では「安物のバローレンズは暗くなるだけで一利もない」と言われていますが、高級品は 数万円もするので手も足も出せません。そこで、一応アポクロマート型3枚レンズの 4,000円程度の物(AstroStreet製FMC3枚玉2.5xショートバロー)を笠井トレーディング から購入しました。小生のオンボロ反射望遠鏡では画像が大きくなるだけで見え味に大きな 劣化は見当たりませんでした。

減速機 本反射望遠鏡を使っているうちにもっとピント合わせが楽に出来ないか考えた結果、 接眼装置に減速機を取り付けました。お金持ちはマイクロフォーカサーなる減速装置を 買えば済むのですが、貧乏人はオンボロ望遠鏡に何万円も掛ける勇気はありません。 なので、アマチュア無線で使っていた同調バリコンの回転速度を5分の1に減速する物を利用 しました。2mm厚のL型アルミアングルを加工しスプレー塗装して鏡筒にネジで固定しました。 スムースな回転を得るために自在継ぎ手を使っています。これでピント合わせが大変楽に なりました。

ファインダー 本反射望遠鏡で使われているファインダーの台座を補強しました。このファインダーは 倍率6倍x口径30mmだと思いますが対物・接眼とも安物の凸レンズなのでピントはボケボケ で盛大な色収差もあり、問題のあるファインダーですが明るい惑星の照準には 何とか使えています。ファインダーはXY軸の4本のネジで固定しますが強い振動や何かに 当たった時などに簡単に照準がズレてしまいます。そこで、新たに4本のネジを追加して 強化しました。ナットの固定は例によってメタルロックの出番です。結果、合計8本のネジ で固定するので安定性は大きく向上しました。

外観 大改造された反射望遠鏡の外観です。手持ちの2大望遠鏡の1つ80mmΦx1200mmの屈折望遠 鏡は鏡筒が長いため取り回しが大変(特に星を見ながらの微動ハンドル操作)なのと高倍率 時の青ハロ(星の外周が青白くなる現象) が目立つので最近では明るく且つこのような問題が生じない反射望遠鏡の出番が多く なりました。考えられる改善対策がほぼ全て終わったのでもう「買ってはいけない」 望遠鏡を卒業して、今や「買っても良い」望遠鏡と言わせて貰います。2階南側の空き部屋 の窓際に3脚を固定して極北・水平を正確に設定したので何時でも窓を開けて天体観測出来 ます。高度は最高55度、水平振り幅は最大60度なので時間帯を選べば月、木星、土星など の惑星観測に便利です。さてさて、大改造の結果どの程度見え味が改善するか秋から冬に かけての天体観測シーズンの到来が待ち遠しいです。



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